避難生活の中でできること

                                NPO法人 福岡気功の会

                                     会長 気功家 山部嘉彦 嘉彦

 震災お見舞い申し上げます。
 それはそれは大きな地震が起きて、津波が起きて、いろいろ壊れて、たくさん死んで、傷ついて、疲れ切っているところに、福島原発がぶっ壊れて、住民が避難させられるという事態になりました。
 私は長い間原発に強く反対してきましたから「だから言わんこっちゃない、今の人間の知的能力ではコントロールできないことだからやめろと言ってきたじゃないか」という思いが噴出しました。そして東電も政府も想定をはるかに超える事態に直面して、不手際続々ごまかし続々です。憤懣やる方ないとはこのことです。
 けれども、大バカヤロウの東電をやっつけても、被害はちっとも回復しない。原発被害はもちろん大きいですが、地震の被害も津波の被害もとてつもなく大きく、今ここにそのまま厳然としてある。誰のせいだと言い募っても溜飲は下がらない。それどころか蒙った被害は傷ついた感情に翻訳され、被害者それぞれの心の中に沁み込んでいってどんどん凝固していくのです。もうすでに固くなっている人もたくさんいると思われます。
 現実的な被害(家屋、家財、インフラ)は、これから少しずつ、必ず人々の努力によって回復していきます。それに勇気づけられて、人々の心の凝固も少しずつ解けていきます。しかし、それは部分的なわずかな融解であって、恐怖の印象だとか、喪失感だとか、被害感情の記憶はなかなか薄れないのです。どうすれば苦悶の沼を脱し、立ち直れるでしょうか。


くじけそうな心を溶かす

 この被害心情の構図は、意外なことに、比較的小さな交通事故に遭ったケースとまったく同じです。ここに解決の糸口があります。そんな被害の心情をもともに戻すには、どうしたらいいでしょう。気功には、解決力が備わっているでしょうか。
 備わっていると自負しているからこそ、書いています。どうぞ、読んでください。

ショックを外す

 突然事件に巻き込まれますと、人はショックを受けます。このショックは心理的なショックをいいますが、ガツンとぶつけられた物理的なショックと同じように、速さと密度が大きいほど、大きいのです。それはこういうことです。

ケース1
 たとえば、元気だったお母さんが突然死んでしまった。親一人子一人。死を看取ることもできなかった。後始末を一人でしたが、母を失ったショックと孤独感と絶望感で、落ち込んだまま というケース。
 筋診断で診ると、心虚。手首の小指側の陰(いんげき)というツボに赤色の一辺6ミリの三角形の色体を貼付すると、気が緩んだんでしょうかね、泣き出して、それから眠ってしまいました。起きてから聞くと「わたし、元気出さなきゃ」とニッコリ笑いました。別に励ましたわけでもありません。励ましたのは、赤の小さな三角形ということになります。

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ケース2
 もう一つ。交通事故に遇って、鞭打ち症になった。フラフラする、頭痛と吐き気もなかなか治らない。事故に遇ってから半年にもなるのに、どの病院にかかっても、よくならない。それどころか、医師や保険の人や加害者からも仮病を疑われてほんとうに辛いと。どんな事故だったかと問うと、車でちゃんと信号待ちしているところに、相手が暴走してきてガツンと追突された。ハンドルで胸を額はフロントガラスにイヤというほどぶつけた。脳震盪を起こした。相手が完全に悪いのに、謝らない、こっちは入院するはめになったというのに誠意のかけらもない…というような按配。それからというもの、ずっと症状が続いている。
 ありそうな話ではあるけれど、その当事者になってみると、知らぬ間に《やっぱり許せん感情》にがんじがらめになっちゃってる。不定愁訴は紛れなき未練症状です。
 悪いのは相手というのは分かった。で、あんた、この鞭打ち治りたいの? 治したくないの? 治りたいんなら、自分でカネ出して治す。自分の整備費用だからねと。そう言うと、は??という顔を私に向けた。その日は、納得できなかったのでしょうが、帰って考えて、翌々日だったか「治りたいです」と。
 心の向きを変えないまま治療しても、身体が逃げるとでも言うのか、治療点がうろちょろして、うまくいかないんです。まあ、通ってるうちに変わってはきますが、初めに変えてしまえば、治癒はあれよあれよですね。この時も、最初は心虚。

ショック性肩こりマッサージ

 二人に共通していたのは、肩甲骨の貼りつきです。当人は、首筋が痛い、肩こりで眠れないことがあるとしか言わない。バリバリの肩こりです。でも、問題は肩甲骨。さらに言えば肩甲下筋です。心経異常の兆候です。
 二人とも、ショックが身体の芯まで沁み込んでいたわけです。手を挙げてみると、バリバリの肩こりがあるんですから、肩の上の漬け物石も一緒に挙げてるみたいになります。それで、棘上筋−肩甲下筋−鼠蹊靱帯−大腿直筋−下腿外側(前脛骨筋、腓骨筋、ヒラメ筋、腓腹筋外側)−後仙腸靱帯を、順次リズミカルにメドレーリレーマッサージをしてもらいました。さっさっさっと、20回ずつ。ものの2〜3分もかからない。で、終わってからもう一回、手を挙げてもらうと、今度はスウーッと挙がった。あれってなもんです。まあ、効いたんですね。その場では。
 このマッサージは正式には診断筋マッサージの中の「中胚葉系筋群さらさらマッサージ」というのですが、リクツを言ってたら日が暮れるので、とにかく騙されたと思ってやってみるといい。リズミカルにフェザータッチで手際よくやるのがコツです。

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このマッサージは、身体の左右を比較してより短縮している側だけをさすると、もっとはっきり効果が現れます。立っている時は、両手を後に回して腰骨の高さを左右比べてみて低い側です。ついでに側腹もつまんでみて痛い側が腰骨の低い側と一致していたらまず間違いなくそちらが短縮側です。分からなければ、両側同時にやればいいし、片側やって肩こりが改善していないようなら、「今のはチャラ」とか言って、「今度はホンキ」と唱えて、逆側をやればいいのです。
 肩が強いこりで、背中の肩甲骨が貼りついているような人は、やってみてください。やらないよりは、はるかにマシです。副作用もない。

心の疲労

 しかし、地震に遇って誰もがみな心経異常に陥るかというと、そうでもない。人によります。では全然平気な人がいるのかと言えば、いませんね。あんな地震と津波とその上原発避難ですから、皆、どこか狂ってしまいます。狂って当然、狂わなければ、それは不感症ですよ。かえって危ない。
 とにかく皆、疲れ切っています。その大半は心が疲れてヘトヘトになっていると思います。身体も疲れていますが、身体が疲れているだけならぐっすり寝られます。ところが心が疲れていると、身体が疲れているのに眠れない。神経が尖ったまま休まらないのです。これは、脳神経の疲労ですから、外胚葉系の異常となって出ます。高血圧、いらいら、眼精疲労、分泌異常など。
 消化器系統の異常が出る人も多いです。軽い人は便秘です。重い人は下痢。食欲不振もありますし、胃が痛いという人も出てきます。味が分からないという人もいます。たいてい息が浅くなってしまいます。症状はさまざまですが、消化器症状です。これらを内胚葉系の異常と診ます。
 まず外胚葉系。次に内胚葉系。最後が中胚葉系です。中胚葉というのが、さっきのショックで小便も詰まっちゃうようなケースです。循環器系統の異常で、血流が悪くなります。生命活動の基礎が揺らぐわけですから、どことなく鈍くなり、面白くなくなります。元気が出ない。低体温症状態です。

不安と心配

 今、テレビで避難所を巡回しているお医者さんの簡易診療の様子が出てましたけど、「そーなんですかー。ハイ、じゃあこの薬のんでね、おばあちゃん、よく眠れるから。不安も消えるから。大丈夫ですよー」なーんでやってる。医者なの?薬屋なの?って感じですが、まあ、マニュアルだけで智慧もないし、たくさん見回らなければならず、すぐ処方しなければならないとなれば、それも仕方ないです。でも、気功家としては、自分の力で、自分の身体の中にある元気を引き出して、自分で立ち直るというシナリオを用意したいですね。
 不安と心配で眠れないというのは、別に被災地の人だけじゃありません。何せ見通しが利かないのですから。不安というのは、ほら、15日の晩に静岡の富士宮の直下地震があったでしょう。長野でも新潟でも岐阜でもありました。こうなると、日本列島全部地震の巣じゃないかと。静岡のなんかは、311地震が引き金になって起きたにちがいない、東海大地震の前触れだぞ、今度は東京全滅だぞとなって、西日本に脱出、海外に脱出の気運高まること請け合いです。不安と心配で眠れないとなる。
 自分のことが心配というのはどうもケツの穴が小さ過ぎというか、小学5年生の少女が彗星が地球にぶつかったらどうしよう…とか、太陽が燃え尽きたら地球はどうなっちゃうのか心配で眠れないというのと同じで、薬も処方のしようがないのですが、大人が取り越し苦労症に陥るのは一種の退行現象ですから、こどもをあやすように励ましてやらなければなりません。「キミの今の心配は、地球の最後の心配と同じだよね、どこが違うと?」と自問するのです。
 また、心配の中には、自分はこうして助かったけれど、肉親はどうなったことやら消息がつかめない、あるいは津波の中で手を離したばっかりに娘は死んじゃったにちがいないというような、自分の不甲斐なさを悔いる心が絡まった心配もたくさんあります。悔いは、悔いても仕方ないという慰め方は慰めにならない。悔いはそのまま認めてやること。悔いはちゃんと悔いなさい、です。悔いて悔いて、悲しみ抜いて、泣き寝入りしなさい。それでも、生きなさい。そうとしか言いようがありません。自分を静かに見つめることが大事です。悔いは心の悲しい宝石です。

亀息のすすめ

 不安や心配に対する私の唯一の処方は、亀息(きそく)です。
 亀は耳で息をする。椅子に座る、正坐、盤坐どれでもよい。顎を引き、背筋を立てますが、肩を沈めてできるだけリラックスしてから始めます。
 軽く目を閉じ、鼻を尖らせ、頤を尖らせます。鼻から細く息を吸い上げ、目頭から方向を水平に転じて目尻を経て耳から抜きます。地平のかなたまで細く吐きます。吸う息を耳から入れて目頭に溜め、呼気は鼻筋を下へそっと落とす。この繰り返し。落ち着いてきたら、耳で息を出入りさせ、その息を細くかすかにしていきます。息を忘れてぼんやりするのもいい。長い時間は必要ありません。最初は2〜3分のつもりでやってみましょう。長くてもいい。10分できたら上等です。

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この呼吸法は一種のイメージ呼吸ですが、自分の不安、自分の心配の中の、ほんとうの不安、ほんとうの心配をはっきりさせるようにします。毎晩、亀息を行じて、自分の心配、自分の不安と向き合います。心配する自分、不安に思う自分を認めてやれば、心は少し和らぎます。それでいいのです。

いくつかの元気引出しプラン

 これから、まだまだ避難所生活が続きます。肩身は狭く、不自由です。プライバシーもなきに等しい。いつのまにか、息は浅くなり、視野も狭くなり、心は浅ましくなります。姿もふるまいも一気に老け込むのです。そういう状況のカンフル剤は笑いです。自分で笑うのもいいし、笑い声を聞くのもいい。とくにこどもの明るい笑い声が一番効く。だから大人としては、こどもに笑ってもらう仕掛けを考えることです。息が調います。歌を歌うのも呼吸法の一種で効果があります。静かな歌がいいのですが、明るい歌もいいけれど騒がしいのはいけません。
 また、平穏な地域でテレビでニュースを見ているだけでも身体が固くなるのですから、当事者の身体の固さは推して知るべし、です。うずくまっていないで、でたらめ体操でもいい、身体を動かすようにしましょう。万歳呼吸は効きます。それから膝の曲げ伸ばしと膝回しは必修です。それと、エアー重量挙げ。足首さすりと手首さすりも。散歩もお勧めします。
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万歳呼吸は、両手を高く挙げたままの姿勢で鼻から息を吸うのです。大きく吸って、ちょっと止めてまた吸って、止めて、また吸って…と3〜4回繰り返します。それ以上吸えないところまで吸って、その直後に腕をどっと落とす。同時にわっと吐きます。手は胸のあたりまで落ちます。真ん中の写真です。吐いてもまだ残気があります。その残気を、唇を窄めて手を下ろしながら吐いていくのです。吐いて吐いて全部吐ききる。吐ききったところで身をぶるぶるっと震わせて、最後にすっと自然に吸い込む。
 1クール30秒ほどかかりますが、これを4回やります。だいたい2分です。肋骨が上り、横隔膜が伸びますから、肺活量が増えます。何といっても、1回の呼吸量が増え、酸素の供給が増えますから、朝起きてやる体操としてこれ以上のものはないでしょう。
 大きなショックを受けると、人は一気に老け込んでしまうと、先ほど書きましたが、身体の面では、それが足腰にきます。骨盤が落ちて、鼠蹊部が縮むので、恥骨が前に出て膝が前に出ます。その膝に体重の負担が偏って、晴や痛みが出易くなります。足腰の弾力を回復させるために、膝の屈伸運動旋回運動は欠かせません。膝の痛みも軽くなります。
 エアー重量挙げも、足腰が焦点です。とくに腰。びっくりすると腰を抜かすといいますが、多くの人の腰のタガが外れた状態になっているものと思われます。これはそのタガを締めなおす運動と思ってください。最後のところで、背筋を締め、腰を締め、お尻と膝を締めるのです。
 さて、最後に、フラッシュバックのスイッチを外します。6年前の3月、福岡に直下型の地震がありました。震度は6弱で、今度の震災に比べたらとるに足らない規模の被災でしたが、それでも多くの人にしばらくさまざまな後遺症が残りました。中でも、「まだ揺れている」との訴えは深刻でした。
 これに対処するため、いろいろ試してみましたが、振り珠と三環掌が効果的でした。振り珠というのは、お臍の前で両手を組んで全身を上下に細かくシャカシャカシャカとゆするのです。5分以上続けます。その心は揺られていないで自分で揺するのです。
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三環掌というのは両手同時に円を描くだけの気功です。まず立ての円、次に水平の円、そして前の壁に描く円です。円の大きさは直径40センチほど。一周を6〜10秒で、ゆっくり回す。立円・平円・横円それぞれ10回ずつ。5分足らずの気功です。その心は三半規管の立て直しです。
 人間の心は、意外に単純なところがあります。でも、それを認めたがらない知性がある。知性が心の喜びを邪魔するようなところがあります。ですから、気功をする時は、こどもの心に戻って、少しおバカで、すなおな気分でやるようにします。そうすればきっと、効果を感じることができると思います。少し、元気になります。必ずなります。
 元気があれば、大丈夫。

おわりに

 このメッセージは、被災者のみなさんのために書いたのですが、仲買人の役割を担ってくださる方がいてはじめて生きてくるのではないかと思います。指導者や統率者、リーダーシップを取れる人、ボランティアセンスのある人が、それぞれの才覚で荷ほどきし、アレンジして使いこなしてもらえると嬉しいです。分かりにくいところなど、ご遠慮なく質問をお寄せください。少しでもお役に立てますように。(2011年3月20日)